夢見カタバミ

ぱるふぁん(twitter→@parfum_de_robe)が見た夢の内容を淡々と記録していきます。

夜逃げの話

「引っ越すよ」

そう言って、母は真夜中に私を起こした。

真っ暗な家の中で、なぜか電気もつけずに無言で荷造りをする。大きなリュックサックと、ボストンバッグと、いくつかの段ボール箱に全てを詰め込む。あっという間に家の中は空っぽになった。名残惜しむ間もないまま、母と私はそっと家を後にした。

 

私は車の後部座席から、ぼんやりと窓の外を見ていた。隣には母が座っている。運転席と助手席には、私の通う大学の教授が座っている。窓の外の景色は大学近辺のようだが、同じ道をただずっと真っ直ぐ走っているのに景色はほとんど変わらない。トランクに乗せた荷物が後ろからカチャカチャと微かに音をたてる以外には、何の音もせず、誰も喋らない。あたりは真っ暗だが、対向車のライトや信号機がやたらと眩しく見える。

「もう少ししたら空港に着きますよ。迎えのプライベートジェットが待っているはずですから、それに乗りなさい」

と、運転席の教授が言った。

「ここまでしていただいて……。本当にありがとうございます」

母は教授にそう言った後、

「私は一緒に行けないけど、心配いらないから」

と私に小声で伝えた。

 

同じ景色が続いていると思っていたが、気づけばどうやら大学近辺から抜け出したようだ。真っ直ぐ伸びる広い車道の両脇には、広い歩道と、規則的に植えられた街路樹しか無い。以前つくばで見た景色によく似ていた。信号機も無ければ建物の明かりも無い。他に走っている車も無い。にも関わらず景色を視認できるのは、月明かりがあるのだろうか。

ふと、街路樹の枝にビニール紐がくくりつけられているのを見つけた。よく見るとどの木にも同じようにビニール紐がぶら下がっている。これはいったい何なのだろう。

と、その時、ずっと無人の道を走っていた車が歩道にいた人を追い越した。顔を見ると私の大学の知り合いだ。彼は縞模様のパジャマを着て、木の脇に置いた脚立の上に立っていた。彼は何をしているのだろう?そう考えた次の瞬間、私は思わずアッと声を出して彼に釘づけになった。ビニール紐を両手を持つ彼を車は一瞬で追い越し、彼の姿は車の後方に消えた。

ビニール紐と脚立の意味。彼の行動。私は理屈を飛び越えて、それらを突然に理解した。

彼はまさに首を吊ろうとしているところだったのだ。

 

 

 

……という夢を見ました。内容が恐ろしい上に、「彼」が私の知り合いなので、寝覚めが非常に悪かったです。しかも「彼」は特に仲の良くも悪くもない知り合いなのでなぜ登場したのかとても不思議で、予知夢だったらどうしようなどと思っていましたが、現実世界では今も元気にしているようです。

あまりにも不吉というか不謹慎なので、「彼」が誰であるかは永遠に私の心に留めておくつもりです。

 

今日の話は、これでお終い。

 

 

愛と死の話

彼は子どものように、落ち着きなくうろうろと布団の周りを歩き回っていた。気分が高揚しているのか、楽しそうにはしゃいでいる。

「もう、布団に入らなきゃダメでしょ。もうすぐなんだから」

私も口ではそう窘めるが、内心ではそんな彼を微笑ましく思いつつ見守っている。私に咎められると彼は肩をすくめて布団に入り横たわるのだが、しばらくするとまた布団から出てしまうのだった。

 

私は彼を膝枕し、頭を撫でて寝かしつけていた。姿は人間でなく真紅の狼になっているが、中身は彼に違いないことを私は知っていた。まだ眠くないよ、とでも言いたげに彼は目をぱっちり開き、度々私を見上げては微笑んだ。

すぐ側に置いたデジタル時計の示す時刻は、ゆっくりと、しかし確実に、『そのとき』へと近づいてゆく。

先ほどまで元気だった彼が急にぐったりとし始めた。眠くなった赤子のように目つきがとろんとしている。『そのとき』が来たのだと、私は気づく。

彼を腕に抱きかかえ、私は嗚咽を漏らして泣いた。彼を失いたくなかった。彼がか細い声で何か言うので、口元に耳を近づける。

「ごめんね」

そう言い残すと彼の体は砂になり、私の腕からすり抜けた。キラキラと輝く砂にまみれ、私は一人で泣いていた。

私は彼を、どうしようもなく愛していた。

 

祖父が小さな木箱を持ってきた。私は彼の残骸である砂を丁寧に両手で集め、その木箱に一粒残さず入れた。祖父は木箱の蓋を閉じ、砂が溢れることのないように四隅のネジを締めた。

私はある儀式をしようとしていた。目の前に流れる穏やかな川は、大きな滝に繋がっている。この川に木箱を流し、滝壺に落ちてきた木箱をもう一度拾えば、彼が蘇るはずなのだ。私は神妙な顔をして、木箱をそっと川に流した。

 

私は滝壺の側に立ち、木箱が落ちてくるのを待っていた。ほどなくして、私の流した木箱が滝から落ちてきた。落ちる途中で木箱は岩にぶつかり、蓋が取れてしまった。

茫然と立ち尽くす私の前に、蓋の取れた木箱が落ちてきた。濡れた空の木箱を拾い、私はしゃがみこんだ。こぼれた砂が、目の前を流れていく。

彼は二度と蘇らない。轟々と響く滝の音の中で、私は再び静かに泣いた。

 

 

 

……という夢を見ました。私が見る夢はたいてい怖いもしくは奇妙のいずれかであることがほとんどなので、悲しい夢は久しぶりに見ました。目覚めたとき、夢だと分かっているのに思い出して喪失感で泣いてしまいました。

 

今日の話は、これでお終い。

 

 

黒猫の話

道路の上に、黒猫が倒れていた。いつも私に懐いている馴染みの野良猫だ。目を閉じてじっとしており、生きているのか死んでいるのか分からない。よく見ると体のどこかから出血しているようで、小さな血溜まりができている。

とりあえず建物の中に運び込まねばなるまい。私は黒猫を両手で抱き抱え、すぐ近くにある自分の住まいへと向かう。猫の体に力が入っていないせいか、やたらと重い。建物の入り口まで来たところで私の腕力に限界が訪れ、床に黒猫を横たえた。

 

私は大きな段ボール箱を抱え歩いていた。中身は空で、フタも開いている。私は黒猫を横たえた場所に向かった。段ボール箱に黒猫を入れて運ぼうと考えたのだ。持ってきた段ボール箱に入れようと黒猫を抱き上げると、さっきまで意識を失っていた黒猫がぱっちりと目を開けた。その途端、黒猫はジタバタと激しく暴れ始め、私の腕をすり抜け物陰へと走っていった。追いかけていくと、近くにあった机の下に潜り込んでいるのが見えた。怯えた様子でこちらを見ている。私は自分の足元に段ボール箱を置くと、しゃがんで黒猫に話しかけた。

「大丈夫だよ。酷いことは何もしないよ。あなたを助けたいだけ」

そのまましばらく静かに待っていると、やがて黒猫はそろりそろりと机の下から這い出て自ら段ボール箱の中に収まった。

よく見ると黒猫の体のまわりを何か小さくて黒いものがぴょんぴょんと跳ね回っている。じっと目を凝らすと、それは親指ほどのサイズもない小さな小さな子猫だった。この黒猫のこどもだろうか。親猫だけを連れて行ってしまってはこの子猫は生きていけないだろう。私はこの子猫も連れて行くことにした。

 

セーラー服を着た女子学生が5人ほどやってきた。

「猫ちゃんだ!可愛い!」

などと口々に言いながら段ボール箱に近づいてくる。女子学生は全員そっくりの見た目をしており、そして皆ずいぶんと体格が大きい。まるで柔道のオリンピックメダリストのようだ。女子学生に怯えた小さな子猫はぴょんぴょんと跳ねて段ボール箱から逃げ出してしまった。

「私は子猫ちゃんを追いかけに行くから、あなたはこの箱の中でじっとしていてね」

と私は黒猫に話しかけた。黒猫は声も出さずじっと私の目を見つめているが、どうやら私の言葉を理解しているようだ。

「この猫、怪我しているんです。これから保護して病院に連れて行くところなので、触らないでくださいね」

と女子学生たちに伝え、私は子猫を追って走り出した。

 

体は小さいのに移動速度はずいぶんと速い。しばらく走り続けて、ようやく子猫を捕まえた。両掌に閉じ込めたが、手の中で激しく跳ねて暴れている。時々噛みつくので掌がとても痛い。しかも子猫の力はどうやら徐々に強くなっているようだ。

ついに痛みに耐えられなくなった私は、思わず手を離した。私の掌から飛び出したのは、子猫ではなく、足の長い大きな蜘蛛だった。ぴょんぴょんと跳ねながら逃げていく蜘蛛を、私は呆然と立ち尽くし見つめていた。

 

 

 

……という夢を見ました。ちなみに現実世界での黒猫ちゃんは今日も木の上で元気に毛繕いしており、安心しました。

 

今日の話は、これでお終い。

 

 

殺人遊園地の話

あのタモリがテーマパークを作ったらしい。オープン日、さっそく私は高校時代の友人達とともに長い列に並び、チケットを買いテーマパークに入った。ずいぶん広い敷地だが、その中身はどうやら東京ディズニーシーの下位互換のようだ。やがて夜になり、閉園時間が近づいてきた。海を模したプールでの水上ショーが始まったが、私は友人達を置いて先にパークから出ることにした。

入り口のすぐ外で友人達を待っていたが、閉園時間を過ぎても一向に出てくる気配が無い。これはどうしたことか。しばらくすると人がぞろぞろとパークから出てきた。よく見ると彼らは皆警備員と思しき人達に羽交締めにされてどこかへ連れて行かれるようだ。そのうちの一人、任天堂のマリオのような見た目の男が警備員の手をすり抜けた。マリオは高いビルの屋上まで逃げると、

「殺される前に死んでやるさ!」

と叫び飛び降りた。追いかけていた警備員は諦めて去っていった。ところがマリオは地面に着く直前に上手く滑空して無事に着地し、警備員が去ったのを確認すると走って逃げ出した。初めから自殺するつもりなど無かったのだ。だが別の警備員がそれを目ざとく見つけるとマリオを再び連行していった。

恐ろしくなった私は柱の陰に隠れ、チケットの事を何故かふと思い出し取り出した。チケットにしてはやけに大きい。そういえば買う時に署名もさせられたな。そう思いながらチケットの裏を見ると、小さな文字でびっしりと『利用規約』が書かれていた。違反しないなんて不可能なほど些細な事まで制限されている。しかもこの規約の有効期間は、利用者がパークに入場してから一生続くのだ。そして違反すれば罰則として生殺与奪の権利がパークに与えられると書かれている。なんとしても殺される前に逃げなくてはいけない。私は警備員に見つからないよう、そっと逃げ出し駅へと向かった。

広い荒地にぽつんと建つ駅には、むき出しのホームが一つあるのみだ。パークから家へ帰ろうとする人々で長い列ができていた。列の中に大学同期が数人いるのを見つけると私は駆け寄った。やがて順番がようやく回ってきて電車に乗り込むと、乗客は何故か全員首に重い鎖を付けられた。この電車は家になんか向かわない。死へ輸送されるのだ。そう直感した私は隙を見て車窓から逃げ出した。

走り続けていた私は真夜中の博物館に迷い込んだ。ある展示室に入ると、一人の警備員が十人以上の人を鎖につないで引き連れているのが見えた。物陰から様子を伺っていると、遠くで何か大きな物音がした。警備員は囚人を残して音のする方へ離れていった。警備員が見えなくなると、床下からあのマリオが現れた。どうにか逃げ出して無事だったのだ。鎖で繋がれた人々と私は、マリオの作った地下空間へ逃げた。

私達は共に地下空間での生活を始めた。窮屈だが穏やかな暮らしがしばらく続いた。ある日、仲間が地下空間に入ろうとする合図のノックが鳴った。マリオは数学者だった。彼はいつも絶え間なく紙と鉛筆で何か計算していたので、仲間が地下空間に出入りする時にとても重い扉を開けてやる係を率先して引き受ける事は無かった。が、その時は私と彼しかいなかったので、彼は鉛筆を渋々置くと扉を開けに行った。

しばらくしても誰も入ってこない。マリオも帰ってこない。耳をすますと何やら騒がしい。騙されたのだ。マリオは扉を突破しようとする警備員達と戦っていた。私はもう一つの出入り口から逃げ出して、後ろも振り返らずに走った。マリオはどうなっただろう。他の仲間たちはどうなっただろう。電車に乗った同期たちはどうなっただろう。一緒にパークに入った友人たちはどうなっただろう。そんなことを考えながら、ただ走っていた。

 

 

 

……という夢を見ました。タモリがこんなに恐ろしい奴だったとは知らなかったなぁ。久しぶりに突拍子もない夢を見ました。

 

今日の話は、これでお終い。

 

 

お菓子投げ戦争の話

プラネタリウムのような劇場で、『ノートルダムの鐘』を鑑賞していた。私の知っているノートルダムの鐘のあらすじとはだいぶ違うようだった。

美女と野獣』のアフターストーリーという位置付けで、主人公はベルと野獣の間に生まれた息子という設定だった。主人公の顔が醜いのはそれが理由なのか、と私は大いに納得した。大満足で映画を観終えて外に出ると、地中海らしい爽やかな港町の風景が広がっていた。

 

灯台のような建物の上から、周り一面に広がる草原を眺めていた。そこへ高校時代に最も仲の良かった友人がやってきて、いつものように挨拶をした。

「そろそろ遊ぶ日程を考えないとね」

と私が言うと、

「もうすぐ同窓会で会うんだし、その時に決めれば良いよ」

と彼女は言った。そろそろ行こうか、と彼女に促され、私達は階段を降りた。

 

潜水艦のような形の空飛ぶ船の中で、私は壁にもたれて座っていた。船内にはありとあらゆる私の知り合いがいるが、どうやら全員女性であるようだ。窓から外を見ると、淡いピンク色の何も無い空間が広がっている。

VRがバグってるわ」

と、船を操縦している誰かが言った。

 

再び窓の外を見ると、船は水路のようなものの上を低空飛行している。水路の両脇には小さな家々が並んでいるが、本物ではないらしい。テーマパークのアトラクションのような、造られた景色だ。

私達の乗っている船のすぐ斜め後ろに、もう一つの船がほぼ同じスピードで飛行している。そちらは潜水艦というよりボートのような見た目だ。同じく私の知り合いが大勢乗っているが、そちらは男性ばかりだ。よく見ると私の知り合いだけでなく、出川哲朗ダウンタウンなどの芸能人も乗っている。

 

ふと船内の壁を見ると、さっきまでは無かったはずのキャンディが棚にたくさん置かれている。私はこのゲームの趣旨を思い出した。

これは現実ではなく、VRゲームの中だ。お菓子を投げると、時間差で爆発する。爆発に巻き込まれるとゲームオーバーとなり、VR空間内から消えてしまう。こちらの船とあちらの船でチーム対戦をしているのだ。

 

私は窓から腕を出し後方の船に向かってキャンディを投げた。上手く船内に投げ込めず、水路に落ちたキャンディは水中で小さく爆発した。船内にいる私以外の人達もキャンディを投げるが、上手くいかない。

相手の船から投げられたキャンディが一つ窓から入ってきて、船内で爆発した。二人か三人ほど乗組員が消えたようだ。続いて何個かキャンディが投げ入れられたが、誰かが爆発前に水路や相手の船に投げることで爆発を免れていた。どうやら船内に投げ入れられても爆発前に急いで船外に出せば良いらしい。

 

船は互いに抜きつ抜かれつしながら、水路に沿って進んでいく。定期的に現れるゲートをすり抜けると景色が変わり、お菓子もキャンディからクッキーやせんべいなどに変わった。私はだんだんとコツを掴み、相手の船内に高確率でお菓子を投げ入れられるようになった。

参加者は全員、とても楽しそうだった。私自身も心からゲームを楽しんでいた。だが同時に、いつになったらVR空間から出られるのか、不安にもなっていた。ゲームはまだまだ続くようだ。

 

 

 

……という夢を見ました。最近はブログに書けるほど夢を覚えていられないことが多かったのですが、久しぶりの更新で怖くない夢について書けて良かったです。

 

今日の話は、これでお終い。

 

 

自分と結婚する話

大きな洋風の屋敷で、カーペットの敷かれた薄暗い廊下を走っていた。裾の広がった真っ赤なドレスと華奢な踵の真っ赤なハイヒールのせいで、ずいぶんと走りづらい。

途中で大学同期の男子二人とすれ違った。二人とも運動用のシャツと短パンでラフな格好をしている。一人目は腹を手で叩いて音を鳴らし、左右に揺れながらゆっくりと歩いていた(彼のいつもの癖だ)。二人目はアコースティックギターをポロンポロンと弾きながら、気分良さそうに歩いていた。知り合いに二人も会うなんて、すごい偶然だな、などと私は思ったが、特に不思議がることは無かった。

 

台所に立っていたのは母だった。

「ちょっと来て、良いから良いから」

呼び寄せられ台所に入る。母は茹でたパスタをちょうど水切りし終えたところのようだった。二枚の深皿にそれぞれ素パスタが盛られている。

「この二つ、どう違うか当ててみて」

母から菜箸を渡され、私は二種類のパスタを食べ比べた。違いはあまりよく分からない。片方が少し塩味が強いような気がする。

「わたくしにも試させてください」

と、フォーマルな服を着た凛々しい老紳士が突然現れた。彼が『爺や』だ、と私は何の不思議も無く思った。

爺やは二種類のパスタを食べ比べると、菜箸を置いた。

「片方には塩味を、もう片方には白ゴマの風味を効かせてありますね」

「当たり!」

母は嬉しそうに言い、そして私に笑いかけた。

 

私は小部屋のドアを開けた。中は真っ暗で、ほとんど何も見えない。何者かが中にいて動いているのがかろうじて見えた。怖くなった私は入るのを躊躇ったが、この部屋に入るよう母から言いつけられたことを思い出し、部屋の中に入りドアをそっと閉めた。

すると突然、明かりがついた。部屋の中にいたのは、私だった。いや、正確に言うと私ではない。私のようだが、明らかに男性だ。背は高いし、体つきもゴツゴツしている。私を男性化したらきっとこうなるだろう、という見た目だ。パリッとした黒いタキシードを着て、短い髪を整髪料でかため、眼鏡をかけている。

私はとても驚いた。と同時に、心のどこかでは『こうなるべくしてなったのだ』と納得していた。私が彼を見つめながら立ち尽くしていると、彼は微笑みながら歩み寄り、私を抱きかかえてどこかへ歩き出した。

 

私と彼は豪華な大きいソファに並んで腰掛け、その周りに私の家族がずらりと並んでいる。私達と向かい合うようにして古そうなカメラが三脚にセットされている。

「それでは撮ります。にっこり笑ってくださいね」

と爺やが言って、カメラのシャッターを切った。

写真を撮り終えた爺やはツカツカと私達の前にやってきて、そして恭しくひざまづいた。

「それでは、お二人とも、誓いますか?」

私は困惑した。

「何を誓うの?私とあなたで結婚するってこと?自分と結婚するなんてできるの?」

「できるよ」

と彼は言った。

「誓うだけで良いんだ」

私は恐ろしくなって、黙り込んでしまった。

 

私は私になっていた。ドレスもタキシードも着ていない、普段通りの、一人の私だった。さっきまでの自分が半分ずつの存在だったことにようやく気づいた。

そうか。私と私が『結婚』したのだ。

何も無い部屋の中で一人、私はそっと安堵した。

 

 

 

……という夢を見ました。いつも以上に支離滅裂で、自分でもよく分からない夢でした。

 

今日の話は、これでお終い。

 

 

飛べない話

石畳の道が、長く長く続いている。二車線分はありそうな幅の広い遊歩道だ。どうやら観光地であるらしく、旅行客と思しき人達が点在し、ざわざわと心地よい喧騒をつくりだしている。道の両側には木造のヨーロッパ風建築が綺麗に隙間なく並んでいる。ベランダや店先にはよく手入れされた花が咲き乱れている。前方を見ると一定間隔で横断幕のようなものがかけられており、カラフルなパステルカラーの文字で何かが書かれているが、はっきりとは見えない。

その道を、私は全速力で走っている。不思議と誰にもぶつからないし、誰も私を気にしていない。少し走っては、えいっと地面を強く蹴る。ふわっと体が浮き上がり、滑空するように十メートルほど低空飛行する。着地するとすぐにまた少し走り、スピードがついたところでまた地面を蹴る。楽しい訳でも苦しい訳でもなく、ただひたすら無の境地でそれを繰り返している。

 

しばらくして、だんだんと飛行距離が短くなっていることに気づく。もはや飛んでいるとは言えない距離、ただ跳んでいるだけだ。それでも私は、走って跳んでを繰り返している。

 

とうとう跳ぶことすらできなくなった。地面を強く蹴っているつもりでも、ちっとも体が上に持ち上がらない。それでも私は走っている。全速力で、走っている。走り続ければまた飛べると信じている。飛べなくなって本当は焦っている。それでも、ただひたすらに、走っている。

 

 

 

……という夢、実は昔から繰り返し何度も見ています。毎回同じ景色に状況で、たまに『これはデジャヴだ』と思ったりするのですが、夢だと気づいたことは無いです。

ところで、この街の景色は私のいつも見る夢の中でもダントツで鮮明かつリアルなんですよね。なのでこの街は世界のどこかに実在するのではないかと思っています。もし旅行先でこの景色に出会ったら確実に見分けられる自信があります。建物の見た目からしてドイツのどこかなのではないかと予想しているので、死ぬまでにいつかドイツには行って確かめなければいけないですね。

 

今日の話は、これでお終い。