夢見カタバミ

ぱるふぁん(twitter→@parfum_de_robe)が見た夢の内容を淡々と記録していきます。

締め出される話(前編)

深夜1時半。手にはスマホと充電ケーブル。私は1人、街を彷徨っていた。

確かに何かの目的を持って家を出たはずだったが、今やそれは消え失せていた。うっかり家の鍵を持たずに出てしまったのか、あるいは鍵を失くしたのか覚えていないが、とにかく自宅から締め出されてしまったのだった。

ひと晩中こうして歩き続けても良いが、明日も朝から仕事だ。できればどこかで睡眠をとりたい。電灯に吸い寄せられる蛾のように、私は駅前に向かって歩みを進めた。

 

マクドナルド、おかしのまちおかドンキホーテ。もう深夜だというのに、ようやく今から店仕舞いを始める様子だ。

大通りに立ち並ぶ店の陰に隠れるように、ひっそりと小さなホテルが建っている。このあたりで唯一のホテルだ。幽霊屋敷のようにボロボロな見た目で不安になるが、この際仕方ないだろう。私はホテルの入り口の扉を開けた。

 

狭くて、汚くて、薄気味悪い部屋に通された。

いや、部屋と呼ぶにはあまりにも狭すぎる。おそらく広さとしては3畳ほどしかないだろう。部屋の中にはベッドらしきものと洗面台しかない。ベッドと言っても、公共トイレによくあるオムツ替え台を大人サイズにしたような奇妙なもので、布団も枕も無い。洗面台はホテル創設以来1度も洗ったことがないのかと疑うほど汚く、これを使うのはやめた方が良いだろうと思った。天井に付いているオレンジ色の電灯は切れかけで暗い。監獄に入ったことはないが、きっと監獄とはこんな感じなんじゃないだろうか。洗面台の鏡を見ながら、ぼんやりとそんなことを考えた。

部屋に入って左手には大きな窓があり、そこから屋上に直接出られるようになっている。網戸は閉まっているが、窓ガラスは左側半分しか閉められないようだ。せめてカーテンだけでも閉めようとしたが、カーテンレールが固く引っかかっていて完全には閉められない。

せっかくホテルに入っても、こんな様子ではとても寝られそうにない。だがひとまずは、スマホを充電できたことで少し安堵していた。

 

「えーそれは大変ですね!」

「もしあれだったらうちに泊まってもいいですよ!」

同僚たちが親切にも心配のメッセージを送ってくれている。ありがたいが、家に上がり込むわけにはちょっといかないなあ。

「たしか駅前に『シスターカー』があったと思うので、そこに行くといいかもしれないですね」

シスターカー?それは何だったっけ。カーというくらいだから、キャンピングカーか何かをホテルのように利用できるシステムだろうか。それは確かに良さそうな案だ。

そんなことを考えながらベッドに腰かけてスマホをいじっていると、バンバンバン!と突然大きな音がした。窓を見ると、大柄な男が窓に張りついてこちらを凝視しながら手で窓を叩いている。驚きのあまり腰を抜かしかけながら、慌ててベッドから飛びおりる。

「出てきてよー、出てきてよー」

薄汚れたタンクトップとトランクスに裸足、坊主で太ったその男は、見たところ40〜50代のようだが、動きや態度はまるで幼児のようだ。

「やめてください!」

必死に声を絞り出して言うが、全く聞く耳を持たない。無邪気な笑みをうっすら浮かべているのが余計に気味悪さを増している。

「出てきてよー、出てきてよー」

もうこんなところにはいられない。早く出て行こう。

そう考え始めたとき、鍵をかけていたはずのドアがガラッと開き、ホテルの支配人がやってきた。青いウィンドブレーカーのような制服を着た老人で、ホテルの支配人というより駐輪場の管理人に見える。

「いや、どうもすみませんねえ。うちの息子なんですよ。お客さんと遊びたいんでしょう」

「あの……、チェックインしたばかりで申し訳ないんですが、泊まるあてが他にできたのでチェックアウトします」

「ああそうですか。480円です」

震える手で財布から小銭を取り出し、支配人の掌に乗せると、私はうしろも振り向かずに早足で部屋を後にした。

 

ホテルから外に出ると、夜はもう明けかけて、空の片側が薄ピンクに焼けていた。さて、これからどうするか。とりあえず駅前にあるという『シスターカー』を目指すことにしよう。右手のスマホでGoogleMapを開きながら、私は閑散とした駅前通りを歩き始めた。

 

 

 

……という夢を見ました。シスターカーって何なんですかね。

 

後編に続きます。

 

 

老いと恋の話

田舎のでこぼこ道。どこまでも続く褪せた色の畑。少し暖かい風。ひぐらしの微かな鳴き声。トロトロと走る軽トラック。その荷台に私は腰掛けていた。

私の肌はクチャクチャに老いていて、トラックが小さな凹凸を越える旅に坐骨のあたりが痛む。隣には孫ほど歳の離れた幼い子どもが腰掛けていて、陽気に足をぶらぶらさせている。何やら楽しげにおしゃべりをしているが、私はうわの空で何も頭に入ってこないままそれらしい相槌を打つ。

遠い昔の、恋を思い出していた。

 

彼とはどうやって知り合ったのか、不思議なことにもう覚えていない。覚えているのは、ただどうしようもなく彼に恋していたということだけ。

学生服を着て、埃っぽい田舎道を毎日彼と歩いた。私が彼を見つめれば、いつも彼と目が合った。それでも照れたり目を逸らしたりはしなかった。心の隅々まで満ち足りた気持ちで、気のすむまで彼と見つめあった。

彼と私は相思相愛なんだと、確信していた。だからこそ、それをわざわざ言葉に出して確かめたりはしなかった。

 

「婚約するつもりなんだ」

いつもの田舎道。いつもと変わらない夏空のような笑顔で彼は言った。

一瞬、言葉に詰まる。

「知らなかった。おめでとう」

私は歩みも止めず、いつもの笑顔で彼の目を見て言った。彼の笑顔を曇らせたくなかった。

 

いつもと同じ三叉路で彼と別れ、振り返らずに歩いた。なるべく、いつもと同じスピードで。

少し歩いてから、やはり気になって私は後ろを振り返った。彼はまだそこにいた。だが、私の方にはもう目もくれていなかった。

彼の前には女の子がいて、いつも私を見てくれたのと同じ視線でその子と見つめあっていた。

そうか。あの子なんだ。

私は少し早歩きで、再び歩き始めた。

 

ひぐらしが鳴いている。視線を落とすと、膝の上に乗せた私の手は古新聞のように老いている。

「ねえ、ちゃんと聞いてるの?」

隣に座っている子どもが、少し拗ねたような顔でこちらを見上げている。ごめんね、と謝りながら軽く頭を撫で、そしてまた私は物思いに耽る。

あれが私の最初で最後の恋だった。ずっとずっと彼を忘れられなくて、誰とも結ばれないままこんなにも老いてしまった。私ももう長くは生きられないのだと、直感で知っている。

私はどこかで間違えたのだろうか。何かが少し違えば、もっと幸せに歳を重ねられたのか。

トラックに揺られながら、私はゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

……という夢を見ました。夢は起きている時間の記憶の整理であり体験したことしか夢に見られない(だから夢の中で死んだりはできない)、というような言説をよく見かけますが、まだ若い私が夢の中で老婆になるというのはなんとも不思議ですね。

 

今日の話は、これでお終い。

 

 

殺人鬼の話(後編)

全てを思い出し理解する前に、ボブは事務所を出発してしまった。だがボブを追いかけるよりとりあえず他のメンバーを避難させるのが先だ。

事務所の奥には小さな隠し扉があり、そこから狭い階段を降りると外に出ることができる。私は他のメンバーに事情を手短に話し、そこから避難させた。最後に私が脱出する少し前に殺人鬼集団が到着し、事務所に火を放った。階段まで火が回るギリギリのところで、私は奴等に気づかれることなく脱出に成功した。

 

無事に事務所を脱出した私達は近くの倉庫に隠れた。各メンバーに武器を配布した私は、街中を彷徨いているであろう殺人鬼たちの捕獲は彼らに任せてボブの救出に向かうことにした。

「ねぇ、ところでボブはどうしたの」

メンバーのアリーが言った。彼女は私の恋人だ。

「……ボブは今日オフなんだ。だから大丈夫だよ」

私は咄嗟に嘘をついた。本当のことを言えばきっとアリーは私を心配するし、引き止めるだろうと思ったからだ。だが私は行かなければならない。ボブを救えるのは私1人しかいない。何故だかそんな気がしていた。

「何か隠しているんでしょう?本当のことを言ってほしいの」

アリーが私の手を握って言った。

「もう行くよ」

アリーの手をそっと払い、後ろめたさで背を向けつつ言った。

「お願い、行かないで!危険なことを1人で背負いこむのはやめて!」

アリーがそう叫んだとき、私はもう走り出していた。

 

しばらく走っていると、バスからちょうど降りたボブが第二事務所に向かって歩いていくのが遠くに見えた。どうにか間に合ってくれと願いながら加速し必死に走る。

ボブが第二事務所に入った直後に私も到着した。

「ボブ!ここはもうすぐ襲撃される!逃げるぞ!」

中に入った私がそう叫ぶや否や、第二事務所の入り口が開き、『バットマン』のジョーカーそっくりな見た目をした殺人鬼が入ってきた。唯一の出入り口に立ち塞がれては逃げ場がない。私達は階段を駆け上がり屋上に向かった。

屋上に着いた私達は、パイプを伝って地面に降りることにした。建物から脱出し広い場所に行けば反撃のチャンスはあるはずだ。ボブが先に降り、私はそのすぐ後を追いかけた。

 

外に着地するとすぐ、ナイフを持ったジョーカーがどこからともなく現れた。なぜか私には見向きもせずボブ1人を狙っているようだ。私が着地に失敗してよろめいている隙に、ジョーカーは手に持ったナイフでボブに襲いかかった。

と、その時、上裸の屈強な見知らぬ男性がナイフでジョーカーを阻止した。すんでのところで攻撃を免れたボブは走って逃げた。

「どうしてなんだ!お前は誰だ!」

ボブを殺し損ねたジョーカーはそう言って激昂し始めた。

次の瞬間、ジョーカーは人間と思えない速度でその男性に詰め寄ると、化け物のように大きな口を開けて男性を飲み込んでしまった。男性を取り込んだジョーカーは粘土のようにムクムクと形を変え、ケンタウロスになった。

すでに走って逃げていたボブはジョーカーからかなりの距離を取っていたが、ケンタウロスになったジョーカーの速さにはとても敵わない。あっという間に追いつかれ、ボブもジョーカーに取り込まれた。

 

そいつはもはや人ではなくなっていた。周囲の人間や建物全てを一瞬で飲み込み巨大化していった。ただの大きな塊と化した体に、ディズニーキャラクターに似たポップなデザインの顔がついている。私は必死に走ってそいつから逃げた。

とうとう私は街の端までやって来た。目の前には橋のない川、背後には化け物。街の全てはすでにそいつに飲み込まれ、世界に私とそいつしか存在しないかのような景色が広がっている。

化け物はゆっくりと口を開き、声を発した。

「運命を変えようというんだから、悪い方に変わる可能性だって当然考えていたんだよなぁ?」

 

 

 

……という夢を見ました。夢の中の私は男性でしかも英語話者だったので、目が覚めたときに奇妙な気分になりました。

ちなみに何故か夢の中の私・ボブ・アリーはそれぞれ、映画「ハイスクールミュージカル」の主要メンバーであるトロイ・チャド・ガブリエラの見た目をしていました。ハイスクールミュージカル自体は殺人鬼など微塵も関係ない楽しい青春ものなので、ぜひ一度観てみてください。

 

今日の話は、これでお終い。

 

 

殺人鬼の話(前編)

ミュージカル観劇を終え、売店で買ったパンフレットを手に劇場から出ると外はすでに夜だった。

「なんだかよく分からなかったな」

と叔父が言うと、

「ちゃんとあらすじ予習しないからだよ」

と叔母が笑った。

殺人鬼集団に狙われる街を自警団が守るストーリーで、照明が暗かったのもあってか陰鬱な印象だった。なんだかよく分からなかったな、と私も心の中で呟いた。

 

私は包丁を持って暴れる男を取り押さえていた。なぜなら私は屈強な成人男性であり、この街の自警団『ワイルドキャッツ』のリーダーだからだ。今朝も自警団のミーティングを終えたあと、こうして街に繰り出してパトロールしていたところだ。

相棒のボブに男を引き渡した瞬間、私の中にとある記憶が蘇った。

私はこのストーリーを知っている。これはあのミュージカルの中の出来事と同じだ。

私は知らぬ間に、ミュージカルで見た世界の中に主人公として入り込んでいた。

 

突然、刃物や銃を持った殺人鬼集団が自警団事務所に襲来してきた。私の知っているあらすじ通りだ。彼らは自警団のメンバーを全員始末しようと企んで手を組み、今日一斉に襲撃を仕掛けてきたのだ。

そして、私の知っているあらすじ通りならば、このあとボブは殺されてしまう。なんとしても止めなければならない。

壮絶な戦闘の末、事務所にいた私以外のメンバーは全滅してしまった。なんとか襲撃から逃げ出した私は、ボブが向かったはずの第二事務所へ走り出した。

裏通りに出ると、鍵を開けて無人の第二事務所に入っていくボブが見えた。

「ダメだ!入るな!逃げろ!」

必死に叫ぶが、声は届かない。ボブが扉を開けた瞬間、中に隠れていた男が包丁を持ってボブに襲いかかった。

そして私の目の前で、ボブは殺された。

 

気づくと私は包丁を持って暴れる男を取り押さえ、ボブに引き渡すところだった。時間が襲撃前に戻っている。手続きのために第二事務所へ行くよ、とボブが去った直後に、再び全ての記憶が蘇った。今度こそ、誰も死なせてはならない。

 

 

 

後編に続きます。

 

 

マツキヨとPayPayの話

涼しい夜だが、少し歩くと鼻の頭にじんわり汗が滲む。マツモトキヨシに着くと、いつも通り店の外に重ねられた買い物カゴを一つ取って明るい店内に入った。

 

マツモトキヨシでの買い物はPayPayで支払うと決めている。感染症対策でもあるし、キャッシュレスでの支払いに割引が適用されていた名残でもある。

目当ての棚の前に立ち止まり、スマートフォンからPayPay残高を確認すると¥2300しかない。このままでも足りそうではあるが念のためチャージしておこう、と思ったものの、チャージ手順を進められない。どうやらメンテナンス中につき銀行からのチャージはできないようだ。そういえば先週マツキヨに来たときもそうだったな、とようやく思い出した。

財布の中の現金は数百円しかない。こんなことならATMに寄って現金を下ろしてくれば良かったな……と若干後悔したが、仕方ないのでPayPay残高で払える範囲内になるように買い物をするしかなさそうだ。

商品の税込金額を暗算で足し合わせながら、私は買い物を続けることにした。

 

 

 

……という夢を見ました。リアルすぎて目覚めた後も夢か現実か一瞬分からなくなりました。ちなみに最初の目当ての品はコバエホイホイだったのですが、現実でも必要だったのでこの後本当にマツキヨに買いに行きました。PayPayが銀行からチャージできないくだりも現実と同じです。

 

今日の話は、これでお終い。

 

 

終電を逃す話

祖父母の家に向かおうとして終電を逃してしまった。乗り換えに失敗したのだ。ギリギリの乗り換えで急いだあまり、間違えて別のホームに来てしまった。気づいた時には、もう終電は発車した後だった。

 

『終電逃しちゃった』

『今〇〇駅。タクシーで向かうね』

と祖父母に連絡し、私は改札を出た。終電を逃した人はどうやら私以外にも大勢いるようで、改札から出た人がぞろぞろとタクシー乗り場に歩いていく。

私がタクシー乗り場にたどり着くと、タクシーを待つ人はすでに長蛇の列をなしていた。しかしここは寂れた住宅街にぽつんとたっている駅なので、タクシーはなかなか来ない。少しずつしか進まない列に痺れを切らした頃、ようやく私は列の前から二番目になった。

タクシーが来て、私のひとつ前に並んでいたサラリーマンが乗り込んだ。ドアの閉まる直前に

「良ければ先に乗りますか?私はもう少し待てるので」

と言って順番を譲ろうとしてくれたが、申し訳ないので丁重に断った。

 

しばらくして、次にタクシー乗り場にやって来たのはタクシーではなくワゴン車だった。運転手は優しそうな若い男性だ。

「隣の△△駅に行けばタクシーいっぱいいるんで、そこまで送りましょうか?この車なら何人か乗れますよ」

と彼が言うので、私とその後ろに並んでいた人達の合わせて五人でワゴン車に乗り込むことにした。

 

お互い見知らぬ人どうしだが、やっと帰れる安心感からか車内には和気藹々とした空気が流れている。

〇〇駅のロータリーを出て少し進むと、大きな国道につきあたる。ここを右折し線路沿いに走れば、すぐに△△駅が見えてくる。

しかし、ワゴン車は右折せずにそのまままっすぐ進み始めた。やがて住宅街を抜け、周囲には暗い雑木林のような景色が広がっている。

「あの、もしかして道を間違えていませんか?」

と遠慮がちに言うと、運転手は

「ああそうかもしれません!すみませんね」

と言って方向転換した。

 

気づけばワゴン車は人気のない廃工場群の中を走っていた。△△駅に着く気配は一向にない。運転は荒く、和気藹々としていた車内も静まりかえってしまった。ただ一人、運転手の青年だけが楽しそうに喋っている。

「あの……。やっぱり電話でタクシーを呼ぼうと思うので、ここで降ろしていただけませんか?」

「いやいやとんでもない!真夜中にこんなところで降りたら危ないでしょう。俺が駅までちゃんと送りますよ」

「△△駅はあとどれくらいで着きそうですか?」

「もうすぐですよ」

身の危険を感じた私は、iPhoneに緊急SOS機能が備わっていることを思い出した。うろ覚えの知識を頼りに、私はこっそりiPhoneのサイドボタンを五回連打した。

次の瞬間、大きなブザー音がiPhoneから響き渡った。緊急SOS機能を発動します、緊急SOS機能を発動します、と無機質な声でiPhoneが繰り返す。

青年は急ブレーキをかけた。ゆっくりと振り返り、無言でこちらを見つめる。先ほどまでの笑顔は跡形もなく消えている。

「……どうしてそんな事したんですか」

そう呟く彼の前で、私は蛇に睨まれた蛙のように震えをおさえ、彼から目を逸らさずにいた。車内にはiPhoneのブザー音が空虚に鳴り響いている。

 

 

 

……という夢を見ました。なんとも後味の悪い夢です。目覚めたあと思わずiPhoneの緊急SOS機能について検索してしまいました。実際この機能を使うときに警告音が鳴るようにするかどうかは設定で選べるようなのですが、間違えて意図せず発動させてしまうのを防ぐ効果もあるので、警告音を消すかどうかは悩みどころですね。

 

今日の話は、これでお終い。

 

 

電磁気学と逃避の話

「では、始めてください」

試験官の声とともに、学生たちが一斉に紙をめくる。どの学生も真剣そのもので、教室の空気は殺気立っている。それもそのはず、これは卒業試験なのだ。この試験の合否で、卒業できるか否かが決まる。

手元の紙をめくると、問題文が書いてある。

ストークスの定理を用いて、以下の場合の電場と磁場を求めよ』

学生によって試験問題はそれぞれ違い、その学生の最も苦手とする分野から出題される。私の試験が電磁気学から出題されるのは当然と言える。

試験時間は短い。とにかく何か書かねばならない。だが、何も書き出せない。しっかりと対策してきたはずなのに、頭が真っ白になってしまった。

 

人混みに揉まれながら、私は駅でスマートフォンを鞄から取り出した。

『試験終わったよ』

『今から帰るね』

と同棲中の恋人にLINEを送り、改札を通り抜ける。

ふと、改札の横に立つ男と目があった。ジャージ、眼鏡、よれよれのキャップ、長い髪。怖いほどの笑顔でこちらを凝視している。私は慌てて目を逸らすと、男の横を足早に通り過ぎた。

 

駅から帰ろうとすると、雨が降っていた。傘を置いてきたことを思い出しつつロータリーで立ち尽くしていると、視界の端にいる男の存在に気づいた。さっき改札で目があった男だ。遠くから私を凝視しているが、どうやらこちらに向かっている。なんとなく身の危険を感じた私は、土砂降りの中を駆け出した。

 

間違いない。あの男は、私を追いかけている。人通りの少ない路地には入り込まないよう用心しつつ、私は男を上手くまこうと大通りで右左折しながら走っていた。

見かけによらず、男は人混みを強引に掻き分けながらかなりの速度で追ってくる。知り合いに助けを求めようと思い立った私は、鞄からスマートフォンを取り出した。恋人、家族、友人、思いつくままに電話をかけるが、誰にも繋がらない。男はどんどん迫ってくる。

 

気づけば細い裏道に入ってしまっていた。こんな所で男に追いつかれてしまったら何をされるか分からない。助けを求めようにも、通りの店は全て閉まっている。

しばらく走っていると、小さな中華料理店が一つだけ開いているのを見つけた。これ以上逃げ続けるのは限界だと判断した私は、その中華料理店に飛び込んだ。

店内に客はおらず、店主と見られる老夫婦がいるのみだ。手短に事情を話すと、厨房の棚の中に隠れるよう案内された。暗く狭い棚の中で息を潜めていると、誰かの走ってくる足音が近づいてきた。

 

 

 

……という夢を見ました。オチも何も無い話で毎度ごめんなさいね。夢のなかでも私は電磁気学が苦手なようです。

 

今日の話は、これでお終い。