夢見カタバミ

ぱるふぁん(twitter→@parfum_de_robe)が見た夢の内容を淡々と記録していきます。

老いと恋の話

田舎のでこぼこ道。どこまでも続く褪せた色の畑。少し暖かい風。ひぐらしの微かな鳴き声。トロトロと走る軽トラック。その荷台に私は腰掛けていた。

私の肌はクチャクチャに老いていて、トラックが小さな凹凸を越える旅に坐骨のあたりが痛む。隣には孫ほど歳の離れた幼い子どもが腰掛けていて、陽気に足をぶらぶらさせている。何やら楽しげにおしゃべりをしているが、私はうわの空で何も頭に入ってこないままそれらしい相槌を打つ。

遠い昔の、恋を思い出していた。

 

彼とはどうやって知り合ったのか、不思議なことにもう覚えていない。覚えているのは、ただどうしようもなく彼に恋していたということだけ。

学生服を着て、埃っぽい田舎道を毎日彼と歩いた。私が彼を見つめれば、いつも彼と目が合った。それでも照れたり目を逸らしたりはしなかった。心の隅々まで満ち足りた気持ちで、気のすむまで彼と見つめあった。

彼と私は相思相愛なんだと、確信していた。だからこそ、それをわざわざ言葉に出して確かめたりはしなかった。

 

「婚約するつもりなんだ」

いつもの田舎道。いつもと変わらない夏空のような笑顔で彼は言った。

一瞬、言葉に詰まる。

「知らなかった。おめでとう」

私は歩みも止めず、いつもの笑顔で彼の目を見て言った。彼の笑顔を曇らせたくなかった。

 

いつもと同じ三叉路で彼と別れ、振り返らずに歩いた。なるべく、いつもと同じスピードで。

少し歩いてから、やはり気になって私は後ろを振り返った。彼はまだそこにいた。だが、私の方にはもう目もくれていなかった。

彼の前には女の子がいて、いつも私を見てくれたのと同じ視線でその子と見つめあっていた。

そうか。あの子なんだ。

私は少し早歩きで、再び歩き始めた。

 

ひぐらしが鳴いている。視線を落とすと、膝の上に乗せた私の手は古新聞のように老いている。

「ねえ、ちゃんと聞いてるの?」

隣に座っている子どもが、少し拗ねたような顔でこちらを見上げている。ごめんね、と謝りながら軽く頭を撫で、そしてまた私は物思いに耽る。

あれが私の最初で最後の恋だった。ずっとずっと彼を忘れられなくて、誰とも結ばれないままこんなにも老いてしまった。私ももう長くは生きられないのだと、直感で知っている。

私はどこかで間違えたのだろうか。何かが少し違えば、もっと幸せに歳を重ねられたのか。

トラックに揺られながら、私はゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

……という夢を見ました。夢は起きている時間の記憶の整理であり体験したことしか夢に見られない(だから夢の中で死んだりはできない)、というような言説をよく見かけますが、まだ若い私が夢の中で老婆になるというのはなんとも不思議ですね。

 

今日の話は、これでお終い。