医学部に入る話
大きなリュックを背負って、私は空港の外に出た。小さめのバスターミナルになっていて、人の列がいくつかできている。大きな白い長距離バスに近づくと、窓からこちらを見ている恋人の姿があった。
プシューと音を立ててドアが閉まり、バスはゆっくりと発車した。私が両手を大きくふると、彼も小さく手をふり返した。バスが見えなくなったところで、私は自分が乗りこむべきバスの乗り場へと歩きはじめた。
『東北大学医学部』と書かれたマイクロバスに乗りこむと、中はほぼ満席だった。よく見ると乗客のほとんどが眼鏡をかけた男性だ。運良く空席を見つけ座ると、隣の席に座っている人も眼鏡をかけた男性だ。このバスには東北大学医学部に入学予定の新入生しかいない。これからはこういう環境で大学生活を送るのだな、などと考えているうちに、ムッとする熱気を車内に閉じ込めたままバスは走り出した。
発車からしばらくすると、隣の男性が話しかけてくる。紺と白のボーダーシャツを着た小太りの体をしており、なぜかやたらと汗をかいている。目線をしきりに泳がせながら何か言っているのだが、声が小さいのと早口なせいでほとんど何も聞き取れない。ヘラヘラと笑いながら適当に相槌をうっていたが、
「本当に暑いので心配ですね、ええ」
という言葉だけが最後に聞き取れた。
「仙台は涼しいと思いますよ」
と私が言うと、男性はうなづいたきり黙り込んでしまった。やがて男性が窓にもたれかかって眠りはじめたので、私はスマートフォンを取り出した。
仙台は涼しくはなかった。じっとりと湿度の高い大教室の中で、他の新入生たちが一人ずつ起立し自己紹介するのを聞いていた。しばらくするとどうやら自己紹介は終わったようで、上級生と思われる若者たちが何やら紙を配りはじめた。手元に回ってきた配布物を見ると、いらすとやの絵を多用した雑なチラシだった。新入生歓迎合宿なるものについて書いてあり、出席か欠席に丸をつけて提出しなければいけないようだった。
紙を配っていた若者の一人が壇上に上がり、何やら説明している。話を聞き流しながら私は何気なく自分の歯を舌で軽く押した。ポロっ、と歯の取れる感覚がする。しまった、こんな気はしていたんだ、と私は思った。そうこうしている間にも歯はどんどん取れる。とうとう口の中にはおさまらなくなってしまった。仕方がないので私はこっそりと両手に歯を吐き出し、ズボンのポケットにそっとしまった。
……という夢を見ました。文字に起こすと医学部感は全く無いですが、夢の中での私は確かに東北大学医学部に入学する気満々だったのです。
歯が取れる夢はここ数年たまに見るので、そろそろデンタルクリニックに行った方が良いのかもしれません。虫歯になってたりして。
今日の話は、これでお終い。