夢見カタバミ

ぱるふぁん(twitter→@parfum_de_robe)が見た夢の内容を淡々と記録していきます。

ゾウと百貨店の話

百貨店の中には、私以外に誰もいない。古く、広く、豪奢で、ロンドンのハロッズのように重厚な造り。何者かに追われながら、誰かを見つけるために、どこかを目指して走っていた。百貨店の中になぜか図書館がある。ちょうどそこに差し掛かったところで、追っ手の影が目に入った。私は無人の図書館を走り抜け、お手洗いに続くはずの角を曲がった。

 

広いホールに立っていた。百貨店の入り口近くの場所で、壁際には大きな金色の像が置いてある。無性別な人間の立像で、ちょうどオスカー像のような見た目をしている。私の隣には耳の大きなアフリカゾウがいて、その背中には小柄な少年が乗っている。

「もうすぐ扉が開くよ」

少年はそう言って、私をゾウの背中に引っ張り上げた。少年の言葉どおり、百貨店の重く大きなドアがゆっくりと開き始めた。ドアの先には手すりの無い細い鉄橋があるが途中で途切れている。鉄橋のはるか下には戦場が広がり、駆け回るローマ兵たちが見える。

少年と私を乗せたゾウは扉をくぐると、鉄橋で助走をつけ、そして耳を広げて飛行する。なぜこんな事をしているのだろう、と私は考えていた。そして、私はこの不思議な力を持つゾウを使って歴史を変える旅の途中であることを、やがて思い出した。

 

ゾウは私と少年を乗せ、閉まりかけの扉をすり抜けて百貨店に入った。私も少年も息を切らしていた。

「次が最後なんだよ」

と、少年はゾウから降りて言った。

「追っ手のことは僕に任せて。君にはまだ大事な使命が残っているんだから」

少年がゾウの尻を軽く叩くと、ゾウは再び扉に向かって勢いよく走り出した。

私に残っている使命って何なの?そう聞こうとして振り返ると、ホールにはすでに誰もいない。金色の像だけがこちらを見つめ返している。ゾウが扉をくぐった途端に、百貨店の景色は虹色の靄に包まれて消えた。

百貨店の外は、第二次世界大戦中のロンドンの景色だった。戦闘機が飛び回り、地上では戦車が列をなして大通りを進んでいる。戦車からたくさんの兵士が出てきて、一斉にゾウを狙撃し始めた。ゾウを殺してはならない、と私は咄嗟に思った。ゾウを殺してしまっては歴史を変えることができない、この大戦を早急に終わらせて犠牲者を減らすことができない、例え私は死んでもこのゾウだけは殺すわけにはいかない。せめてもの盾になろうと、私は全身でゾウの頭を覆った。

 

廃墟がつくる大きな日陰に、おびただしい数の死体が並べられていた。全て土や血にまみれた兵士たちの死体で、中には手足が欠損していたり火傷で爛れているものもあった。遠くから聞こえる蝉の鳴き声以外には何の音もしない。戦争は終わったのだ、と私は気づいた。

几帳面に整列された死体の間を、ゆっくりと慎重に歩く。向かい側から一人の少年が歩いてきた。伸びきったボロボロのタンクトップ、丈がとても短いペラペラのショートパンツ、ボサボサの髪、裸足。日焼けと土汚れで真っ黒な肌に、白目と歯の白さだけがやけに際立つ。手には竹槍のような形状をした白くて細長い棒を持っている。目が合った瞬間に、私は少年の殺意を感じた。殺される。今すぐに逃げなければ。

 

気がつくといつのまにか、私自身がゾウになっていた。百貨店の中に逃げ込んだが、裸足の少年も百貨店の扉が閉まる前に滑り込んできてしまったのだった。少年をまこうと百貨店内を必死に逃げ回り、やがてスポーツ用品売り場にたどり着いた。

百貨店に入っている一店舗にしては、やけに広いスポーツ用品売り場だ。エスカレーター付近が吹き抜けになっていて、その吹き抜けの一番下から一番上まで、おそらく七、八フロアほどが全てスポーツ用品売り場になっている。少し離れたところにある商品棚の影から、裸足の少年が顔を出した。私は耳を広げ、ゆっくりと吹き抜けを上昇して逃げ始めた。

そこに、止まっているエスカレーターを〇〇くんが駆け上がってきた。〇〇くんは大学の同期で、大柄な体つきをしている。普段はゆっくりとした動きしかしない彼だが、素早い動きでエスカレーターを上っていく。手には薙刀のような武器を持っており、裸足の少年から私を守ろうとしている。

裸足の少年の走る速さはかなり遅い。だが、まるで瞬間移動しているかのように、あっという間に私と同じフロアまで上がってきてしまう。〇〇くんはなかなか少年に追いつけない。私は上昇速度を上げて逃げきろうとするが、スピードは全く上がらない。そうこうしているうちに、吹き抜けの一番上まで来てしまった。

私は商品棚の影に隠れることにした。商品棚はとても背が高く、ゾウになった私が十分に隠れられるほどの高さだ。テニスラケットが陳列された棚の間で、そっと息をひそめる。

何の音もしない。どうやら逃げ切れたようだ。安堵して瞬きすると、少年が目の前にいる。白い歯を見せて少年が笑う。槍を構える。私の胸をめがけて躊躇いなく槍を刺す。そして私は、

 

 

 

……という夢を見ました。三、四ヶ月ほど前に見た夢だったと思いますが、あまりに強烈だったので反芻しているうちにこびりついて離れなくなってしまいました。

ところで、この時は私が殺されそうになるところで夢から覚めたのですが、もしも夢の中で死んでしまったら現実の私はどうなってしまうのでしょうね。

 

今日の話は、これでお終い。